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ザ・ハムの正体は何か 低周波音の謎を「外の音」と「耳の中」から整理する

ザ・ハムの正体は何か 低周波音の謎を「外の音」と「耳の中」から整理する

結論から言うと、ザ・ハムは一つの原因で起きる現象ではありません。

世界各地で報告される低いうなり声のような音の中には、工場設備や換気装置など実際の外部音源で説明できるケースがあります。一方で、代表例のタオスでは大規模な計測でも一致する外部信号が見つからず、2026年の研究では低周波の主観的な耳鳴りに近いケースが少なくないと示されました。

つまり、ザ・ハムは「未解明の超常音」よりも、複数の現象をまとめて呼んでいる名前と考えるのが、現時点では最も妥当です。

  • この記事の結論
  • 確度レベル: 有力説あり
  • 外部音源でかなり説明できる地域もあるが、すべてを一つの原因では説明できない
  • とくに未解決例では、低周波騒音と低周波の耳鳴りを切り分けることが重要
  • 難しいのは「本当に音がない」のではなく、低周波音が測りにくく、感じ方の個人差も大きいこと

ここがポイント: ザ・ハムは単独の謎音ではなく、外部の低周波騒音で説明できる事例と、耳の知覚側の問題が有力な事例が混ざっている。

目次

ザ・ハムとは何を指すのか

まず押さえたいのは、ザ・ハムは厳密な病名でも物理現象の正式名称でもないことです。

一般には、少数の人だけが聞く、あるいは強く気にする持続的な低いブーン音、うなり、振動感を指します。報告では、遠くでディーゼルエンジンが回っているようだ、と表現されることが多く、2026年のPLOS One論文でもこの特徴が整理されています。

典型的な特徴

  • 音は30〜80Hz前後として語られることが多い
  • 夜間や静かな室内で目立つと訴えられやすい
  • 同じ家にいても聞こえる人と聞こえない人がいる
  • 「音」だけでなく、圧迫感や振動感として語られることもある
  • 睡眠妨害や強い不快感につながりやすい

英サルフォード大学の低周波騒音FAQでも、影響を受ける人は一部だが、当人には深刻な睡眠障害や苦痛になりうると説明されています。

仕組み1 外にある低周波音が原因のケース

ザ・ハムの中には、かなり現実的な音源で説明できるものがあります。主役になりやすいのは、大きな産業設備、送風機、圧縮機、換気設備、燃焼設備です。

低周波音は高い音より減衰しにくく、遠くまで届きやすい性質があります。サルフォード大学の解説でも、音源が数キロ離れていても発生源になりうるとされています。

なぜ見つけにくいのか

低周波音は、音源が遠いほど「方向」がつかみにくくなります。さらに屋内では壁、床、天井、窓の影響で音圧分布が偏り、同じ部屋でも場所によって大きく違って聞こえます。

2007年の測定研究では、低周波では室内の音圧レベルが20〜30dB変動しうると示されました。これでは、測った位置が少し違うだけで「出ていない」と判断してしまうおそれがあります。

実際に外部音源が疑われた代表例 ウィンザー・ハム

カナダのウィンザーでは、2011年ごろから低周波のうなりが問題化しました。カナダ政府が公開している調査要約では、大学チームが「ハムは実在する」と結論づけ、Zug Islandの高炉操業が有力な発生源だと報告しています。

ただし、ここでも話は単純ではありません。同じ公開資料には、別チームの観測として、35Hz付近の信号は見つかったものの、Zug Islandを決定打として断定できなかったとする記述もあります。

この食い違いが示すのは、低周波現象の調査が「ある日たまたま鳴っていたか」に強く左右されることです。発生が断続的だと、機材を置いた日に再現しないだけで証拠が途切れます。

仕組み2 外の音ではなく、耳の知覚が関わるケース

もう一つの有力な説明は、低周波の主観的耳鳴りです。

2026年にPLOS Oneに出た研究は、ザ・ハムのような知覚を訴える28人を調べ、低周波聴力と耳の自発音を測定しました。その結果、参加者が申告した知覚の中心周波数の中央値は50Hzでしたが、例外を除けば、訴えのある人が特別に低周波に敏感だったわけではないとされました。

さらに、低周波の自発耳音響放射も確認されず、研究チームは、外部音源が関わる例を否定はしないものの、しばしば低周波の主観的耳鳴りが理由だろうと結論づけています。

これは「気のせい」と同じではない

ここは誤解されやすい点です。

主観的耳鳴りは、外に対応する音源がないのに本人にははっきり知覚される現象です。つまり、外部音ではない可能性があるからといって、本人の苦痛まで否定されるわけではありません。

WHOの騒音ガイダンスでも、環境騒音は睡眠妨害や不快感、心身への負担と関係すると整理されています。ザ・ハムの原因が外でも内でも、眠れない、集中できない、常に警戒してしまうという影響自体は現実です。

根拠 タオスとウィンザーは何が違ったのか

ザ・ハムを語るうえでよく並べられるのが、米ニューメキシコ州のタオスと、カナダのウィンザーです。この2例は対照的です。

タオス 代表的だが、決定的な外部信号が見つからなかった

1994年のJournal of the Acoustical Society of America掲載報告では、サンディア、ロスアラモス、空軍研究所、ニューメキシコ大学のチームが、音響、地震、電気、磁気、電磁気の同時計測を実施しました。

聞こえる人たちの証言から30〜100Hzに注目して調べたものの、説明に合う信号は見つからず、少なくともその範囲の空気伝搬音は背景レベル以外確認できなかったと報告されています。

タオスが重要なのは、「有名だから」ではありません。かなり本格的に測っても一致する外部音源を押さえられなかったため、ザ・ハム全体を工場音だけで片づけるのは無理だと示したからです。

ウィンザー 実測で低周波成分をつかみ、工業設備が有力になった

一方のウィンザーでは、公開報告で30〜35Hz帯の信号や、住民報告との対応が繰り返し検討されました。調査要約では、発生源候補として高炉操業が挙げられています。

この差は大きいです。ザ・ハムの中には、外で鳴っている低周波音を住民が実際に拾っているケースがあると分かったからです。

よくある誤解

短く切り分けると、誤解は次のようになります。

「ザ・ハムは全部、超常現象だ」

これは根拠が弱い見方です。

少なくともウィンザーのように、工業設備が有力な例があります。原因不明の事例が残っていることと、超常現象が証明されたことは別です。

「測れないなら音は存在しない」

これも短絡的です。

低周波音は測定位置で結果が大きく変わりますし、屋内では定在波の影響も強いです。サルフォード大学も、低周波苦情は自治体にとって扱いが難しいと説明しています。

「一部の人しか聞こえないなら思い込みだ」

これも雑です。

人の低周波聴力には個人差があります。2026年研究は「特別に敏感」とまでは支持しませんでしたが、低周波知覚の成り立ちが単純でないことは示しています。しかも、主観的耳鳴りなら本人だけが聞くのはむしろ自然です。

現時点で分かっていること

  • ザ・ハムは世界各地で似た形で報告されている
  • 典型的には低いブーン音、脈打つ感じ、遠いディーゼル音のように表現される
  • 外部の低周波音源で説明できる例がある
  • タオスのように、かなり調べても一致する外部信号が見つからない例もある
  • 低周波騒音は遠くまで届きやすく、屋内で測りにくい
  • 苦情を訴える人は少数でも、睡眠や生活への影響は小さくない
  • 2026年研究では、未解決例の一部は低周波の主観的耳鳴りで説明できる可能性が高まった

まだ分かっていないこと

ここが、ザ・ハムが今も残る理由です。

1. すべての報告を一つのモデルで説明できない

工場音で説明できる例と、説明できない例が混在しています。だから「原因はこれ一つ」と言えません。

2. 発生が断続的で、観測と一致しにくい

鳴っていない日に測っても手がかりは取れません。ウィンザーでも、発生日が限られたことが特定を難しくしました。

3. 外部音と知覚側の要因が重なる可能性

ごく弱い外部低周波音があり、それを一部の人が強く意識する形で苦情になる可能性もあります。外か内かの二択ではなく、両方が重なるケースは十分ありえます。

4. 新しい研究にも限界がある

2026年のPLOS One研究は重要ですが、参加者数は28人で、研究対象は主に聴覚由来の仮説です。世界中の全タイプのハムを一気に説明したわけではありません。

まとめ ザ・ハムは「一つの怪音」ではなく、切り分けるべき現象群

ザ・ハムの原因を一言で言うなら、「地域によって違うし、人によっても違う」です。

外部の低周波騒音が主犯のケースはあります。ウィンザーはその代表です。けれど、タオスのように大掛かりな計測でも説明しきれない例があり、そこでは低周波の主観的耳鳴りが有力になります。

今後の注目点は次の3つです。

  • 発生時刻に合わせた長期連続計測がどこまで進むか
  • 低周波騒音と低周波耳鳴りを同時に評価する調査が増えるか
  • 「原因不明」のまま一括りにせず、地域ごとに別件として扱えるか

ザ・ハムの謎は、怪談としてはなくなりません。ですが科学の立場では、謎が深いというより、同じ名前で別の現象を呼んできたことが最大の難所です。

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