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ヴォイニッチ手稿には何が書かれているのか?未解読文書の正体を研究から整理する

ヴォイニッチ手稿には何が書かれているのか?未解読文書の正体を研究から整理する

結論から言うと、ヴォイニッチ手稿の本文は2026年4月24日時点でも解読されていません。ただし、何も分からないわけではなく、15世紀前半に作られた本物の中世写本で、植物、天文・占星、身体や入浴、薬草や薬剤のような主題をまとめた実用寄りの書物だった可能性が高い、というところまでは絞られています。

つまり謎なのは「本物か偽物か」より、どの言語や記法で、何をどう隠して書いたのかです。ここでは、解明済みの部分と未解明の部分を分けて見ていきます。

  • この記事の結論
  • ヴォイニッチ手稿は「正体不明のデタラメ本」とは言い切れない。
  • 羊皮紙やインクの分析から、15世紀の実物である可能性はかなり高い。
  • ただし本文の意味は未解読で、自然言語説・暗号説・人工的生成説が競合している。

ここがポイント: 「何が書かれているか」は未解読。ただし「いつ頃の、どんな性格の本か」はかなり見えてきています。

目次

まず結論:今いちばん妥当な見方は何か

現時点で最も無理のない見方は、ヴォイニッチ手稿は中世後期に作られた、一定の構造を持つ本物の文書だというものです。

その理由は単純です。羊皮紙の年代、インクや顔料、製本の作り方、複数の筆跡、本文の統計的な偏りが、いずれも「気まぐれに作った近代の偽書」より中世写本に近いからです。

一方で、本文がそのまま既知の言語だと断定できる証拠もまだありません。したがって、いま言えるのは次の水準です。

  • 何かしらの意味を持つ文書である可能性は高い
  • ただし平文の自然言語とは限らない
  • 単純な置換暗号だけで説明できるとも限らない

どんな本なのか

まず、物としての手稿を押さえると全体像が見えやすくなります。

物理的な特徴

イェール大学の資料によれば、この写本は現在ベイネッケ稀覯本・手稿図書館に所蔵される羊皮紙の冊子です。2016年のYale Newsでは、本文を囲む絵として、正体不明の植物、天文・占星図、緑の液体の中にいる裸婦、折り込みページがあると説明されています。

ここで重要なのは、奇妙な絵があること自体より、本としてかなり手間をかけて作られていることです。折り込みまで含む構成は、思いつきの落書き帳とは違います。

絵が示す「主題」の候補

本文は読めないため、研究者はまず絵から便宜的に区分します。よく挙げられるのは次の系統です。

  • 植物を中心にしたセクション
  • 星や黄道十二宮に見える図を含むセクション
  • 裸婦や管のような図が並ぶ身体・入浴系のセクション
  • 容器や薬草片のような図が出る薬剤系のセクション

このため、内容候補としては

  • 薬草書
  • 医療や養生の手引き
  • 占星術と医療を結びつけた実用書
  • それらを混ぜたコンピレーション

がよく議論されます。

ただし、絵から主題を推定できても、本文の意味が読めたわけではありません。ここを混同すると話が飛びます。

なぜ「本物の中世文書」と見られているのか

結論を支える根拠は、ロマンではなく物証です。

1. 羊皮紙の年代が15世紀前半

イェール大学の紹介では、アリゾナ大学の炭素14年代測定により、羊皮紙は15世紀のものとされました。一般向け説明では1404年から1438年ごろが有力な範囲として紹介されています。

これで、かつて有名だった「13世紀のロジャー・ベーコン著」という説はかなり弱くなりました。逆に、20世紀の古書商ヴォイニッチ本人が作った近代偽書説も大きく後退しました。

2. インク・顔料・製本も中世と整合的

Yale News は、インクや顔料の分析で現代的な材料の証拠は見つからず、製本技法も15世紀の本作りと整合的だと伝えています。

つまり、羊皮紙だけ古くて文字は後から書いた、という単純なトリックも今のところ裏付けが弱いということです。

3. 本文はランダム文字列らしくない

2013年のPLOS ONE論文では、語の並びや分布を調べた結果、ヴォイニッチ手稿のテキストは実在の言語列に近い複雑な構造を持つと報告されました。別の同年論文でも、本文は自然言語と整合的な面が多く、ランダムな文字列とは合いにくいとされています。

この点が重要です。もし完全なデタラメなら、語の出現のしかたや繰り返し方はもっと雑になるはずです。ところが実際には、本文に一定の癖と規則がある。

だから研究は「偽物か本物か」から一歩進み、どんな規則で書かれたのかへ移っています。

4. 書き手が1人ではない可能性

2020年の筆跡研究を紹介した2024年のYale Library記事では、リサ・フェイギン・デイヴィスの研究として、5人の書き手が関わった可能性が示されています。

もしこれが妥当なら、写本は孤独な一人の奇人の遊びではなく、ある程度の制作環境を持った共同作業だった可能性が出てきます。これは「何かの実用品だったのでは」という見方を少し強めます。

よくある誤解

未解読文書は、分からない部分が多いほど断言が増えがちです。ここは整理しておく価値があります。

「もう解読された」は本当か

ほぼ毎年のように「ついに解読」と話題になりますが、学界で広く受け入れられた決定版はありません。イェール大学も2024年時点で、意味や目的をめぐる議論が続いていると説明しています。

一つの論文やニュースだけで決着したように見えるときは、次を確認すると見分けやすいです。

  • 原文全体を一貫して読めているか
  • 他の研究者が同じ方法で再現できるか
  • 絵や歴史資料とも矛盾しないか

「宇宙人の本」「超古代技術書」なのか

その種の説は人気がありますが、物証は中世ヨーロッパの写本に寄っています。材料分析も製本も中世と整合的で、まず検討すべきなのは中世の医療、薬草、占星、暗号文化です。

奇妙な絵があるからといって、いきなり超常説に飛ぶ必要はありません。

「植物が実在しないなら全部偽物」なのか

これも早計です。中世写本には、写し間違い、複数の植物の合成、象徴的表現、地方差の大きい描写が珍しくありません。植物が特定しにくいことは、内容が難しい理由にはなりますが、即座に偽書の証拠にはなりません

現時点で分かっていること

ここまでの研究を短くまとめると、分かっているのは次の点です。

  • 15世紀前半の羊皮紙に書かれた可能性が高い
  • インク、顔料、製本は中世写本の範囲に収まる
  • 本文には繰り返しや語分布の規則性があり、無作為な文字列とは言いにくい
  • 図像からは植物、天文・占星、身体、薬剤に関わる本らしさがある
  • 17世紀プラハ周辺までさかのぼる来歴がある
  • 書き手が複数いた可能性がある

まだ分かっていないこと

一方で、核心はまだ空白です。

  • どの言語が下敷きになっているのか
  • そもそも自然言語なのか、人工言語なのか
  • 暗号ならどの方式なのか
  • 挿絵と本文がどこまで対応しているのか
  • 誰が、どこで、何の目的で作ったのか
  • 読者として想定されていたのが医師、薬草家、修道共同体、宮廷関係者のどれなのか

未解読が長引く理由もここにあります。文字だけではなく、言語・暗号・図像・書物史が全部絡む複合問題だからです。

まとめ

ヴォイニッチ手稿に「何が書かれているか」への正直な答えは、まだ「読めない」です。ただし研究が積み上げた結果、答えはかなり狭まってきました。

  • 本物の中世写本である可能性は高い
  • 内容は医療・薬草・占星系の実用知に近い可能性がある
  • それでも本文の読解方式は見つかっていない

次に注目すべきなのは、派手な“解読成功”宣言より、筆跡研究、画像解析、暗号モデル、言語統計をどう突き合わせるかです。ヴォイニッチ手稿の謎は、1本の名推理ではなく、地味な検証の積み重ねでしか崩れない段階に入っています。

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